駐在員 

鉄道郵便輸送をする上で、郵便車と乗務員が主役のように思われがちですが、駅で郵便物を受渡するのは、沿線の郵便局や、主要駅の鉄道郵便局、分局、郵便室であり、決められた時間に駅ホームに郵便物(郵袋)を搬送して郵便車に積み込み、取り降ろされた郵便物を郵便局に搬送して引き渡す郵政職員や民間人がいました。これが「受渡員」ですが、鉄道郵便局施設内、駅構内で列車との受渡や、郵袋の仕分けと管理、在中郵便物の区分作業等を行う鉄道郵便局員を「駐在員」と呼びました。

勤務場所

1 鉄道郵便局

「鉄道郵便局の組織」で、鉄道郵便局、分局の所在駅を列挙しました。設置箇所は歴史上いくつもの変遷を経て、昭和中期以降、廃止されるまで、鉄道郵便局は14箇所にありました。

2 分局

主に鉄道郵便線路が分岐するなど、鉄道郵便局の設置が必要ながらも、乗務や受渡、積み替え輸送量が比較的小規模な駅に分局が置かれていました。職員は直接ここに出退勤します。

3 駅郵便室

駅郵便室は、大まかに2つの形態がありました。

(1)鉄道郵便局の本局が駅構内や隣接地にない駅

乗務員の出退勤、郵便物の受渡、管理等の業務を行う施設で、乗務員、駐在員は、原則としてここに出退勤して業務に従事します。輸送上の手続きは鉄道郵便局本局が扱うものと見なされますので、郵便室は本局の派出所という位置づけでしたが、本局は事務が主体ですので、郵便室の方が広大な面積と設備を有する場合が多かったです。正式名称と看板の表示は郵便室なっていますが、輸送上で必要な書類、標札類、通信日付印は単に「鉄道郵便局」となっているものが大半でした。

(2)鉄道郵便局、分局がない駅

鉄道便の発着頻度と輸送量が比較的少なく、鉄道郵便局、分局が設置されない郵便線路分岐駅や、荷物郵便専用列車が発着する貨物駅で郵便物、ホーム搬送用具を保管する施設が必要な駅に設置されました。郵袋の保管とホームへの搬送、列車の受渡、受渡郵便局・鉄道郵便局とを連絡する自動車の受渡に特化した業務で、通信日付印は郵便室名記載のものが使用されました。

ア、駐在員を配置する郵便室

駐在員は始発便から最終便までの時間帯だけ鉄道郵便局から派遣され、夜間は無人で郵袋はすべて郵便局に持ち帰るのが原則でした。例として、大阪鉄道郵便局百済駅郵便室は関西本線百済貨物駅(現在の東部市場前駅付近)にあった荷物列車専用ホームに設置され、亀山大阪便(上下2便ずつ)が発着する時間帯に受渡業務を行い、郵袋は大阪中央郵便局と大阪鉄道郵便局からトラックで運ばれ、乗務員は大阪駅から平野駅まで電車便乗で移動して専用ホームから乗務する一方で、駐在員は大阪鉄道郵便局から派遣されていました。

イ、乗務員が折り返し時間に執務する郵便室

鉄道便が折り返し、他線路と分岐するが、便数が少なく、積み替えだけの業務が必要な駅では、郵袋や搬送用具の簡易な保管場所を設けた郵便室を設置し、折り返す乗務員が積み替え、受渡業務をするのが効率的と認められる駅に設置されました。例として、大阪鉄道郵便局王寺駅郵便室は、京都王寺線の乗務員(京都分局)が折り返し時間に亀山大阪線、王寺和歌山線との積み替え業務を担当しており、夜間は無人で、施設もホームの先端にある小規模なものでした。

4 分室

鉄道郵便局、郵便室だけでは処理できない数量の郵便物がある鉄道郵便局では、駅から離れた場所に分室を設置していました。受渡郵便局、鉄道郵便局と連絡するトラック便があり、処理する郵袋の種別は小包類、大型等に限定するなど、大量輸送に特化した施設で、駐在員は鉄道郵便局から派遣して常駐するケースも多かったようです。また、コンテナ締切便利用の郵便物は直接分室から発着させる方法で、鉄道便、駅郵便室の輸送を救済するなど機動的運用に適していました。

(1)常設の分室

鉄道郵便局、駅から離れているため、専用の庁舎に鉄道郵便局駐在員を配置し、郵袋保管場所、自動車発着口を設けながら、窓口業務がない郵便局という感じの建物で、分室を示す立派な看板を表示していましたが、小包集中局が設置されるなど業務量の減少に伴って、常設を取り止め、夏期・年末繁忙期のみ期間限定の開設に変更されたり、廃止されることもありました。

(2)臨時分室

夏期・年末繁忙期といった輸送繁忙期に限り、鉄道郵便局以外の施設を借り上げた分室。最寄り郵便局施設の一部や敷地内の仮説プレハブ小屋、民間の倉庫、体育館、学校(廃校)、公民館などがあり、鉄道郵便局員が派遣されました。一時的であるためか、看板は手書きの模造紙など簡単にする一方で、開設の際には郵袋区分柵やベルトコンベアを鉄道郵便局から運び込むのがひと手間でした。施設が広大で冬場は暖房が効かず、夏場は防犯上の理由から一部の扉以外は閉めきるため蒸し暑いなど、勤務するご苦労はありながらも、駐在員と学生アルバイト、パート主婦が奮闘して大量の郵袋を処理しました。体育館や公民館を借り上げると、ある時期に郵便トラックや国鉄コンテナが頻繁に出入りするので、事情を知らない周辺住民は驚いたそうです。

駐在員の業務

前記の鉄道郵便局施設に勤務し、乗務や事務(計画、庶務会計など)に専従しないで、もっぱら列車との受渡、積み替え、区分作業、最寄り郵便局との中継作業など、駅で郵袋、郵便物を取り扱うのが駐在業務でした。

1 駅ホームへの郵袋搬送とホームにおける鉄道便との受渡

2 発着口における郵便局連絡運送自動車との受渡

3 前記1、2による郵便局、鉄道便相互間の受渡仲介

4 到着郵袋の引渡先別仕分けと保管管理

5 鉄道郵便局、分局ごとに必要に応じて行う業務

(1) 郵便物の区分、差し立て

   ほとんどの場合は郵便番号上2桁による区域の分配局に指定され、速達小包、普通小包を区分差し立て

(2) 乗務員の乗務開始、終了駅で車内予備郵袋の作成と、残郵袋の受領と再整理

(3) 駅構内、駅前ポストから郵便物を回収して、方向別区分の上で乗務員又は集配郵便局への引き継ぎ

駐在員の担務

鉄道郵便局、分局の規模と業務範囲によりますが、施設が大規模な局の担務と名称は次のとおりです。(一例)

1 主事

各担務の事務分担を統括、施設と郵便車内の残留及び郵便物の点検、通信日付印・送状原簿及び郵便室設備器具の点検、郵便車運行日報・職員勤務指定表・勤務記録簿及び郵便日誌の作成

2 主任

主事担務以外の各担務を統括

3 日報

送状類の作成・授受及び取りまとめ整理、郵便室業務日報作成、差立便・到着便・受渡局との郵袋受渡立ち会い・点検を統括、保管郵袋の授受・点検の統括、通信日付印の更埴

4 ホーム

駅ホームで差立便・到着便の乗務員と郵袋授受、締切便の郵袋積み降ろし

5 受渡

鉄道便・自動車便・水路便及び受渡局との郵袋授受及び点検

6 保管

郵袋の保管及び授受、必要な送状類の作成・授受及び取りまとめ整理

7 分配

大郵袋の開披と郵便物の区分・差し立て、準備郵袋の受入れ・差し立て、通信日付印の更埴

8 監視

郵便室又は駅ホームで郵袋盗難防止のための監視、郵袋搬送器具の線路上転落防止

9 取集

駅構内設置のポストから郵便物回収と区分引き継ぎ

10 出来高

鉄道便・自動車便・水路便及び受渡局からの大郵袋受入れ及び差立便ごとの便編成、送状類の作成・授受及び取りまとめ整理、通信日付印の更埴

11 昇降機

昇降機を操作して郵袋又は搬送具の移動

12 郵袋処理

乗務員用準備郵袋の受入れ及び差し立て、必要な送状類の作成・授受及び取りまとめ整理、週報・日報の作成

13 電動車

発動車又は電動車を運転して郵袋台車を牽引して郵袋を搬送

14 技術

郵袋搬送用の車両・台車・機器類の点検・整備・統括

15 補助

各担務の業務を支援・補助

受渡員

鉄道便と受渡する郵便局名は、資料館の鉄道郵便線路図で明記されています。全体からすれば、鉄道郵便局、分局、郵便室等が設置されているのはごくわずかですから、その他大半の駅は沿線受渡局から駅までさらに、駅ホームまで郵袋を搬送し、乗務員と受渡をしたのち、郵袋を郵便局に持ち帰ります。この業務に従事する人が受渡員です。郵便局の規模や、駅との距離により、受渡員の職種、使用車両は大別して次のとおりでした。

1 集配郵便局員

集配区域の世帯数、事業所数などが集配業務量を左右しますが、鉄道便と受渡する集配郵便局で、受渡郵便物の数量が少なく、一列車当たりの郵袋数が一個、又は多くても十数個以下の郵便局からは、局員が搬送して、乗務員と直接受渡をしました。使用車両は、軽四輪の郵便自動車が多く、郵袋一個のみ受渡することが日常化している場合は、オートバイ、自転車で搬送した局もあり、局が駅と近くであれば、徒歩やリヤカー等で搬送しました。

2 逓送員

「逓送」という言葉は、旧郵政省の前身である逓信省の名称を引継ぎ、郵便物を運送する言葉として一般化しており、特に、郵政省と密接な運送会社(傍系企業)として全国の郵便自動車運送を担った、(株)日本郵便逓送が、自動車郵便線路の輸送、鉄道駅への輸送と受渡、空港や港への輸送、各局管内ポスト、無集配郵便局を巡回しての収集業務で大きなシェアを持っていました。同社の自動車は「赤い郵便車」として世に知られ、車体全部を赤色、又は郵便物搭載部分を銀色としながらも、運転席全体を赤色にすることで、街中でも一目で郵便車とわかるものです。そのほか、全国各地には、同様の郵便自動車により、地域に限定した営業免許で郵便輸送を行う会社も存在し、「◎◎逓送」という社名を付けたものや、「◎◎交通」という名称で、地域のバス、タクシー事業者が運営又は関連企業として事業を行う企業、鉄道会社等の運輸機関でありながら郵便自動車運送を行う企業も参入していました。代表格の日本郵便逓送は、通称「にってい」と呼ばれ、車体に「Nittei」と表記するまでになりましたが、2009年に高速道郵便輸送会社等他社と合併して、(株)日本郵便輸送と社名変更して、全国の郵便輸送で大きなシェアを得ています。近年は、輸送業務の自由化により、一般の貨物運送事業者が郵便輸送に参入するようになった結果、長距離の自動車郵便線路を中心に、一般の大型トラックがいろいろなデザインの車体に「〒」表示を付けて輸送する姿が多く見られるようになりました。ともあれ、鉄道輸送の時代は、多くの駅で、日本郵便逓送等の契約逓送会社による郵便車が、郵便局と駅との輸送を担い、鉄道郵便局等がある駅では駅構内の作業は局員に任せますが、それ以外の駅では、駅ホームの搬送と列車との受渡をすべて、郵便車の運転手と助手、いわゆる逓送員が行っていました。そのため、駅備え付けの郵袋台車など搬送具や、エレベーター、テルファー(ホーム間移動昇降機)の取扱いも行い、郵袋と共に送致証も預かり、受渡個数との照合も行うなど、鉄道郵便輸送に重要な役割を果たしていました。郵便局と駅の搬送を逓送会社に委託するのは、郵袋受渡個数がおおむね数十個~数百個程度の場合で、車両は1トン(トヨタハイラックスなど)、2トン(いすずエルフなど)、4トン(いすずフォワードなど)の郵便車が多く使われました。鉄道便乗務員からは「逓送さん」と親しまれ、民間社員ながら信頼を寄せていました。

3 受渡委託員

前記1のような受渡郵袋数が少数の郵便局から駅までの搬送と駅での受渡を郵便局員が行わず、地元運送業者等に委託することが地方駅で多く見られました。郵便局で一日数本の列車受渡のために駅へ出向く場合、駅に列車到着ぎりぎりに着けばよいのではなく、いくらかの時間的余裕をもって、受渡に遅れないように早めの出発をします。また、鉄道便のダイヤによっては、上り下りの2列車受渡となる場合に駅で待ち時間が必要で、郵便局から片道10分ほどの駅で受渡するために、出発してから戻るのに1時間以上かかる場合もありました。その間は局の業務を他の局員で回す必要があり、郵便車が1台しかなければ他の局外業務に使えません。そのため余裕を持った人数の局員や車両を配置すると経費がかさむという問題があります。また、駅に搬送する郵便車は、ポストの収集や小包配達などに兼用するので、何かの原因で車両が戻るのが遅れた場合には駅への搬送と受渡ができなくなります。そこで、信用ある地元運送会社、郵便物集配委託会社等と契約して、郵便局と駅との郵袋搬送、列車との受渡のみを代行してもらう方法が合理的、経済的との判断で、受渡委託が行われていました。会長が乗務した路線のある駅では、委託のおばちゃんが軽四に郵袋を積んで駅に着き、リヤカーに満載するとホーム端の急な上り坂をダッシュで上がり、郵便車内めがけて、大きな郵袋をすごい勢いで次々と投げ込んでくれたのが印象的です。客車には、重い箱をかついだ行商のおばちゃんが乗っており、何か共通するおばちゃんパワーを感じたものです。建設作業を中断して受渡に来た作業服姿の屈強なおじさんや、高齢のご夫婦で駅にやってくる局もあって、郵便局員でも逓送会社でもない、民間の方々が地方の鉄道郵便輸送を支えてくれていました。

 

 

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