郵袋宛先局読み方教室

郵袋の宛先局読み上げと記録は、駅駐在、乗務員にとって重要な仕事でした。郵便局(又は鉄道郵便局)と鉄道便が受渡する郵袋の種別、宛先と個数は郵袋送致証に記載され、受渡や積み替えの際に正しく受渡されているかを照合し、過不足がないことを確認するため、個数を随時数えることで、紛失等の事故防止を図っており、車内や駅ホームでの読み上げと記録を正確に行わないと書類誤記や紛失の見逃しにつながります。そのため、郵便車内、駅ホーム、郵袋保管室で郵袋を移動、積み上げをする職員1~3名が自分が手にした郵袋の標札に記載されている種別や宛先局名を読み上げ、便長や駐在責任者が読み上げた都度、それを復唱しながら記録紙に記載しました。迅速に、しかも言いやすく、聞き取りやすくするために、次のような工夫が行われていました。
●長い局名は適宜省略したり旧国名を付けた
●鉄道郵便局や路線ごとに独特の読み方や地方色がある言い換えをしており、同じ局名でも地方により呼称が違っていた
●列車が走行中にトンネルや鉄橋に差しかかり、車内が突然うるさくなったり、駅ホームの放送が大音量で流されても、聞き間違いしないように、似た名前の複数の局名を独特の呼び方で読み分けした
●読み上げにメロディーを付けて(東北地方の駅などで列車到着時に「あお~もりぃ~~」と伸ばすような)、語尾を伸ばす速度で締切担務が取り上げるタイミング、便長が記録紙にペンを当てるタイミングを相互に図りながら、読み急ぎや書き遅れを防いだ
●鉄道郵便局によっては、乗務開始で最初に読み上げる担務者が第一声で「願いまして~は~」(そろばん塾の練習や検定時と同じ音程)と唱和することで「以後の読み上げをよろしくお願いします」という意味の便長へのあいさつと敬意を表した


1 郵袋種別を示し、宛先局の前に冠する用語
・ツウ ⇒ 通常郵袋  ・コヅ(又はコツ) ⇒ 小包郵袋  ・トンボ(又はヒコーキ) ⇒ 航空郵袋
・マルコ ⇒ 速達小包郵袋  ※元々通常の一種のため、車中差し立ての報告時、駐在で特に必要な場合に使用
・オオガタ ⇒ 普通定形外郵袋  ※同上
・ビジネス ⇒ ビジネス速達郵袋  ・カス ⇒ 空郵袋(回送郵袋又は乗務員準備郵袋、残郵袋)

※鉄道便車内の締切郵袋読み上げは、原則として通常郵袋のみ局名の前に「通常(ほとんどはツウと省略)」を冠し、小包郵袋は局名のみ読み上げ「コヅ」は使用しませんでした。一方、扱い便で、同一列車に護送便を連結する場合は護送便に小包郵袋を積載するため、扱い便はほとんど通常郵袋しか積載しないことから、通常郵袋は局名のみ読み上げ、まれに小包郵袋が積まれた場合のみ「コヅ」を冠して読み上げました。また、大阪に向かう阪青便は、大阪中央宛て通常郵袋と大阪小包宛て郵袋が圧倒的に多いので、便長から「ダイサカは省略しよう」と指示があれば「ツウ」「コヅ」とだけ読み上げるなど、大量の郵袋を限られた時間で正確に読み上げて記録する工夫をしました。

2  宛先局名の読み上げ方(主に各局沿線乗務員が考案)
・アイワカ ⇒ 会津若松  ・アンコロ ⇒ 石川県松任(名産品から)  ・イッセキ ⇒ 一関
・ウドン
(又はウツトン) ⇒ 宇都宮東  ・オオフネワタシ ⇒ 岩手県大船渡  ・オオメシ ⇒ 福井県大飯(おおい)
・オヤ ⇒ 新潟県親不知(おやしらず)  ・ガンコク ⇒ 岩国  ・キンギョ ⇒ 大和郡山(特産品が金魚のため)
・グンザン ⇒ 福島県郡山  ・サケノタ ⇒ 酒田  ・サンジ ⇒ 広島県三次(みよし)  ・シズナン ⇒ 静岡南
・シモカン(又はゲカン) ⇒ 下関  ・シンコウ ⇒ 神戸港  ・ジュウドル ⇒ 北海道十弗(とおふつ)
・ダイサカ又はダイ ⇒ 大阪(中央)又は大阪小包
・ツウツル(又はツルツル) ⇒ 通常郵袋敦賀宛て ※便長によっては「ツルツル」は使用禁止
・トトヅ ⇒ 富山県魚津  ・トラヤ ⇒ 北海道富良野  ・ナンブ ⇒ 東京南部小包  ・ハチシカ ⇒ 兵庫県八鹿
・ハマニシ 
⇒ 浜松西  ・ホクブ ⇒ 東京北部小包  ・マツニシ ⇒ 松山西  ・ミナミ ⇒ 富山南(阪青便で呼称)
※読めない場合の字句説明方法 標札に「098-25音威子府」とあれば…
締切担務「えぇ~っとぉ、北海道の…何やこれ?4文字で、音楽のおと、威力業務妨害のい、子供のこ、大阪府のふ…わかるぅ?」
便長
「それなぁ、おといねっぷ言うんや」…さすが!
※伝わりにくい場合も 標札に「082芽室」とあれば…
締切担務「えぇ~っと、また北海道で~2文字、芽が出るのめ~」 便長「目ん玉のめ~?」 
締切
「ちゃいまんがなぁ…発芽とか、木の芽のめ~、それと根室なんかのむろ~」 便長「了解!」

3 同一読みの局名を聞き間違えないための読み方
・「いずみ」  ワイズミ ⇒ 大阪府和泉 VS デミズ ⇒ 鹿児島県出水
・「えさし」  エサシ ⇒ 北海道江差 VS エダコウ
 ⇒ 北海道枝幸
・「しべつ」
  サムライベツ ⇒ 北海道士別 VS ヒョウツ ⇒ 北海道標津
・「せんだい」  センダイ ⇒ 仙台中央 VS カワウチ
 ⇒ 鹿児島県川内
・「とうじょう」
 ヒョウゴトウジョウ又はアカシトウジョウ  ⇒ 兵庫県東条 VS ヒガシノシロ ⇒ 広島県東城
 ※広島県西城
は「ニシノシロ」と読み、広島県安芸西条(←西条を改称)と区別
・「ふくしま」
  オシマフクシマ(又はゼロヨンフクシマ) ⇒ 北海道福島
 VS フクシマケンフクシマ(オオサカフクシマ) ⇒ 福島県福島(大阪府福島)
・「もんべつ」  イトモンベツ ⇒ 北海道紋別 VS カドベツ(又はカドモンベツ) ⇒ 北海道門別


4 類似の局名を聞き間違えないための読み方
・「くれ」と「うべ」  ヒロクレ ⇒ 呉(広島県呉を省略) VS ヤマグチウベ ⇒ 宇部 ※「ウベタン」という読みもあり(宇部炭坑から)
・「とうや」と「とおや」  ドウヤ ⇒ 洞爺 VS トオヤ ⇒ 遠矢
・「とくやま」と「ふくやま」と「とくしま」  ソウトク ⇒ 徳山(周防徳山⇒すぅおとく⇒そうとく) VS 
  ビンフク(又はビン) ⇒ 福山(備後福山を省略) VS アワトク ⇒ 徳島(阿波徳島を省略)
・「なら」と「なだ」  カメナラ ⇒ 奈良(亀阪線にある) VS コウベナダ ⇒ 灘(神戸市)
・「ねむろ」と「めむろ」  コンムロ ⇒ 根室 VS トカチメムロ ⇒ 芽室
・「やしろ」と
「やつしろ」 ヒョウゴヤシロ又はアカシヤシロ ⇒ 兵庫県社(やしろ) VS ハチダイ(又はヤッチョロ) ⇒ 熊本県八代
・「わかやま」と「おかやま」  ワカヤマ ⇒ 和歌山 VS カバヤ ⇒ 岡山
(有名な菓子会社から)


5 乗務員名及び区間名
・アオナナ ⇒ (青函乗務員)青森県外七(青森県のほかの七県を加えた八県という意味で、東北六県、新潟県も納入)
・アワボケ ⇒ (高中乗務員)阿波池田大歩危間
・イシカワホカニ ⇒ (敦直乗務員)石川県外二(石川県のほか、富山県、新潟県を合わせた三県)
・オカロク ⇒ (阪糸乗務員)岡山県外六(岡山県のほか広島、山口、四国四県を加えた七県)
・キュウカク ⇒ (糸門乗務員)九州各県  ・キョウイサイ ⇒ (阪敦乗務員)京都府以西
・シラホク ⇒ (旭網乗務員)白滝以北  ・シントウ ⇒ (滝根乗務員)新得以東
・チチ ⇒ (旭稚乗務員)智恵文稚内間 ※実際は通常郵袋である「ツウ」を冠して「ツウチチ」
・フクロク ⇒ (糸門乗務員)福岡県外六(福岡県のほかの九州内六県を加えた七県で、前記九州各県と同じ意味)
・モンカヒガシ ⇒ 門司鹿児島東回り乗務員

6 鉄道郵便局及び分局
・アオテツ ⇒ 青森鉄郵  ・キョクテツ ⇒ 旭川鉄郵  ・キンテツ ⇒ 金沢鉄郵  ・センテツ ⇒ 仙台鉄郵
・タカテツ ⇒ 高松鉄郵  ・ナガテツ ⇒ 長野鉄郵  ・ニイテツ ⇒ 新潟鉄郵  ・ヒロテツ ⇒ 広島鉄郵
・メイテツ ⇒ 名古屋鉄郵
・アキブン 
⇒ 秋田分局  ・イトブン ⇒ 糸崎分局  ・オビブン ⇒ 帯広分局  ・カメブン ⇒ 亀山分局
・シオブン ⇒ 塩尻分局  ・シモブン ⇒ 下関分局  ・タカブン ⇒ 高岡分局  ・トヨブン ⇒ 豊橋分局
・トンブン ⇒ 敦賀分局  ・ハヤギブン ⇒ 早岐(はいき)分局  ・ヒガシブン ⇒ 東小倉分局
・ヒメブン ⇒ 姫路分局  ・ベイブン ⇒ 米原分局  ・ワブン ⇒ 和歌山分局

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